※iOS10へのアップデートに伴いアプリの機能が一部使用できない不具合が確認されました。
現状(2016年12月時点)では修正等の対応が困難のため、一時Appストアでのアプリ配信を停止しております。
ご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございません。
ご理解ご協力の程、何卒よろしくお願い申し上げます。
視覚障がい者にとっては、どんな簡単な経路であっても、安心して道を歩いて、目的地に向かうということは、とても難しいものである。
現在、視覚障がい者が単独で歩行を移動するにあたって、その歩行を支援するための仕組みが様々に考案され、実用化されている。
インフラという視点からは、点字ブロックや誘導鈴、点字サインなどがあり、道具としては白杖がその代表である。
また、障害物を赤外線で予知するための端末や、特定の施設に設置された音声案内装置に反応させる微弱電波を活用した仕組みなどもある。
そして、盲導犬の使用や、歩行訓練士による歩行訓練といったソフト面での対策も重要である。
視覚障がい者にとって、安心して歩行移動するためには、何かひとつの方法に頼るということではなく、上記のような様々な仕組みや装置を、その人にあわせて組み合わせていくことが重要であり、何かひとつの方法で安全な歩行移動を実現させるという考え方はあまり現実的とは言えないだろう。
このような中、近年急速に広まっているスマートフォンに着目して、視覚障がい者の歩行移動を支援する機能をアプリによって実現することを目指した。
上記と同様、あくまでもこのアプリは、視覚障がい者の歩行移動を支えるひとつの方策であり、このアプリひとつで自由に歩き回れるという性格のものではない。
視覚障がい者の多くは、音声読み上げが標準搭載されており、キーの操作性が高いことなどの理由から、折りたたみ式の携帯電話でdocomo社の「らくらくホン」利用者が多い。
しかし、ここ2~3年の間でらくらくホンからスマートフォン、中でもiPhoneへ乗り換えるユーザーが少しずつ増えている。
iPhoneには、標準で「voice over」が搭載されており、この機能をオンにすることで、誰もが音声読み上げの機能を活用することができる。
また、音声をテキストに変換する「siri」も視覚障がい者にとっては、便利な機能である。
そして、数あるアプリの中で視覚障がい者にとって便利なアプリがリリースされており、それが視覚障がいにとっても、スマートフォンへ移行させる大きな動機づけになっている。
例えば、カメラを用いて色を判別するアプリや、撮影した写真をサーバーに送り、写っているものを音声にして教えてくれるアプリなどがあり、生活空間に関しては、グーグルマップ上に紹介されている一定の半径内の公共施設や、飲食店などを、音声によって紹介するアプリもある。
そこで、このアプリ開発ではiPhone版に絞って、視覚障がい者の歩行移動を支援する仕組みを構想することにしたのである。
視覚障がい者向けの生活アプリが上記のようにいくつかリリースされている中、歩行移動を支援するという性格のアプリは平成25年夏の時点では見当たらず、どのような機能を盛り込むか、というレベルからのスタートであったが、その足掛かりとなったのが電気通信大学の野嶋研究室が開発したAndroid版のアプリ「STRAVIGATION」である。
目的地を設定すると、現在地から目的地までの距離感を複数の震動によってユーザーに伝えるという単純な機能である。
このアプリは視覚障がい者向けということではなく、誰もが利用できるという趣旨で開発されている。
このアプリを参考にしながら、iPhoneのvoice over機能を生かし、音声と震動によって目的地までの距離と方向を知ることができる、という機能を中心に開発を進めていくこととしたのである。
アプリの基本的な方向性や、機能、操作性の確認のために、視覚障がい者の声を聞き取る体制づくりを行った。
本アプリの開発元である特定非営利活動法人プロジェクトゆうあいには、視覚障がい者が3名在籍しており、この3人の意見を初期の段階で十分にヒアリングを重ねるとともに、ライトハウスライブラリー(島根県松江市にある点字図書館)の職員で歩行訓練士の庄司氏をアドバイザーに招くこととした。
また、島根県視覚障害者福祉協会の本山氏、東京の高田馬場にて視覚障がい者向けの情報機器販売を行っている株式会社ラビット、その代表で全盲の視覚障がいの荒川氏からも、開発過程でご意見を伺うこととした。
そして、STRAVIGATIONを開発した電気通信大学の野嶋先生からも直接お話を伺い、本アプリ開発にご協力いただいた。
なお、プロジェクトゆうあいのスタッフの2名は、本事業を進める過程の中で、らくらくホンからiPhoneに変え、日々iPhoneを利用する中から様々な機能についてのアイデアを出してもらった。
実際のアプリ内部のシステム構築に関しては、iPhone向けアプリ開発に実績のある株式会社e-fusion社(本社:埼玉県川口市)に委託した。
「○×駅までどれくらいの距離で、どっちの方向なのかな・・」「だいぶ歩いてきたけど○×駅、もうそろそろだと思うけどなあ・・」そのような時に活用できるアプリを目指した。
このアプリは、視覚障がい者向けとして開発を開始したものであるが、視覚障がい者にかぎらず、地図が苦手といったような方も含めて対象を幅広く想定している。
自分がこれから行きたい、と思う施設を入力すると、その施設までの方向、距離を震動と音声ガイダンスとで説明し、さらに事前に登録した通過ポイント、目的地ポイント付近に来ると、そこまで到達したことを震動によって知らせ、その場所を音声により案内する。
また、自分がいる場所の住所、端末を向けた向きの方角(東西南北)も音声により案内する。
視覚障がい者の方などは、タクシーを呼ぶときに、自分の場所が分からず困ることがあるが、この住所説明によって解消することができる。
また、方角を案内する機能によって、自分が反対向きに歩いていくようなことも避けることができる。
目的地を登録すると、現在地から登録した目的地までの距離が文字で表記され、音声読み上げで、その距離を聞くことができる。
また、端末を水平に持って左右(360度)かざすと、目的地の方向に端末が向いたときに、固有の震動がある。
距離数は、その方向に向かって歩いていくと、その距離に応じて短くなっていく。
目的地の入力方法は3つ。
設定した目的地に到着すると(概ね10m範囲)、到着を知らせる固有の震動があり、音声で到着したことを聞くことができる。
目的地への経路の中で、目印となる通過ポイントを、1)の目的地の登録と同じ方法で登録することができる。曲がり角や、郵便ポストなどに通過ポイントを設定しておけば、その付近に来たときに、固有の震動で伝えるとともに、通過ポイントの名称を音声で聞くことができる。
アプリが起動している間、常に左下に配置されている「現在地の住所」ボタンをタップすることで現在地の住所を音声で聞くことができる。
アプリが起動している間、常に右下に配置されている「方角」ボタンをタップすることで端末の向けた方角を「南西」などとして、8方位に分けて音声で聞くことができる。
本アプリをリリースしたのちに、視覚障がい者を被験者として実証実験を実施した。
実証実験実施日:2014年2月17日 10時~12時
実験の方法:ライトハウスライブラリー会議室にて、事前に1時間ほど、アプリの主旨と使い方を説明。
そののち、島根県民会館に向かい、県民会館バス停から県民会館入り口まで(約200m区間-曲がる箇所は1ヵ所)の歩行に、本アプリを活用していただいた。
その後、ライトハウスライブラリーにもどり、アプリの使用感について、聞き取り調査を行った。
被験者:視覚障害者5名
たいへん効果あり | 効果あり | 少し効果あり | 効果なし |
---|---|---|---|
0 | 5 | 0 | 0 |
たいへん役立つ | 役立つ | 少し役立つ | 役立たない |
---|---|---|---|
1 | 2 | 2 | 0 |
たいへん役立つ | 役立つ | 少し役立つ | 役立たない |
---|---|---|---|
1 | 2 | 2 | 0 |
たいへん役立つ | 役立つ | 少し役立つ | 役立たない |
---|---|---|---|
2 | 3 | 0 | 0 |
たいへん役立つ | 役立つ | 少し役立つ | 役立たない |
---|---|---|---|
0 | 4 | 1 | 0 |
たいへん役立つ | 役立つ | 少し役立つ | 役立たない |
---|---|---|---|
2 | 2 | 0 | 1 |
たいへん役立つ | 役立つ | 少し役立つ | 役立たない |
---|---|---|---|
1 | 4 | 0 | 0 |
実証実験の結果から、アプリの機能全体として、概ねすべての利用者が高く評価をしている。特に目的地の方向が震動で分かるという機能については、評価が高かった。
その一方で、通過ポイントや目的地に到着した際の震動による案内は分かりにくかったという意見がある。
スタンドアローン機能である「現在地の住所」「方位」を音声で聞くことができる機能はシンプルで使い勝手がよいと評価される半面、ボタンの位置が少し利用しずらい、という意見もあった。また、弱視の方を含む健常者にも利用していただくことを考えれば、音声だけでなく、テキストとして表記されることも必要という意見があった。
また、目的地や通過ポイントの登録が増えていくと、リストから選ぶことが難しくなるために、フォルダーによるグルーピングができるようにという意見もあった。
目的地、通過ポイントは、それぞれの端末ごとに入力していくことになるが、ウェブによる共有の仕組みを活用し、自分が登録したポイントを、他の人にも利用できるようなシステムづくりが必要という声もあった。
これらの意見を踏まえて、その改良版である「てくてくナビ」のver.2開発が期待されている。また、同様の機能を持つアプリをAndroid版で開発することも課題となっている。